天使のアリア––翼の記憶––

アナウンスが入り、ダークオレンジに包まれていた場内に再び光が溢れる。

眩いステージライトを全身に浴びて、まるで私自身まで輝いているような錯覚を覚える。

緊張なんかどこにもなくて、ただただ、ワクワクしている。

早く音楽を届けたい。

早くピアノを弾きたい。

そんな気持ちでいっぱいだ。


ステージ袖から優雅に登場した先輩は、ふわりとドレスの裾を翻して客席を向いた。

ドレスにくっついているキラキラなスパンコールが、ラメが、ビーズが、ステージライトに輝いて先輩を更に美しく魅せる。

美しいなと率直に思った。

女神だと思った。

私はピアノの前に立ち、藍羅先輩のお辞儀に合わせて私もお辞儀する。

拍手が場内を包み込む中、私はピアノ椅子に座り先輩の合図を待った。

藍羅先輩がちらっとこちらを見た。

それが、合図。

私は奏でる。

どうか、この会場の一番奥、最後列の人にまで。

この音が、想いが、届きますように。


そして先輩が歌い出した。

先輩の声と、私のピアノが混ざり合って場内いっぱいに響き渡る。

先輩の歌声と指先に集中しながら、私はただひたすら自分にできることを精一杯していた。

先輩の歌声がお客様全員の心に届きますように、と願いを込めて。


1曲歌い終わると、「ありがとう」と藍羅先輩が笑った。

その瞬間、堰(せき)を切ったように歓声をあげて盛り上がる観客。

その歓声の大きさに、拍手の大きさに、驚いてしまう。

ちらりと先輩がまた私を見た。

また次の曲を奏でよう。