天使のアリア––翼の記憶––

「ここ、アンコールって書いてあるだろ?」

先輩が指さしたところには、確かにアンコールと書いてあった。どうやら藍羅先輩の出演のすぐ後にあるらしい。

「それが、どうかしました?」

先輩の演奏なんだから、アンコールが来ることは容易に想像できる。別に何の不思議もないけどな。

「何であたしだけなんだ? 出演者全員で何かやればいいだろうに、それとは別にアンコールの時間が取ってあるなんて」

あぁ、と私は言った。

「それは、藍羅先輩へのアンコールが止められないからですよ」

何てったって、藍羅先輩は何度も色々なコンクールで賞を総ナメにしている、あの有名な"孤高の歌姫"なんだから。

「それに、藍羅先輩は推薦枠なんですし」

む、と眉間にしわを寄せてまだ不満そうに資料を眺めている先輩に、私は声をかけた。

「先輩、そろそろ着替えた方がいいと思いますよ。もしかしたらデューク先輩達が会いに来てくださるかもしれないですし」

ぴくり、と肩が上下に動いた先輩。

デューク先輩、という言葉に過剰に反応したのを私は見逃さなかった。

あぁ、焦れったい。

素直になればいいのに。


「でゅ、デュークが来るとか来ないとか、そ、そんなの関係ないだろ! で、でも、ま、まぁ、き、ききき、着替えるけど!」


そのツンデレ具合が可愛すぎる。

あぁ、先輩って何でそんなに完璧なの。

先輩は顔を真っ赤にしながらドレスを片手に、急いで更衣スペースへと引きこもってしまった。

この先輩がいつか素直になる日がくるのだろうか。

ふと想像してみたけれど、駄目だ、想像がつかない。

だって、藍羅先輩とデューク先輩がイチャイチャしてるところなんて……。

そりゃ、デューク先輩が藍羅先輩にデレデレしているのはいつものことだけれど、藍羅先輩がデューク先輩にデレデレするのは考えられない。

その時不意に先輩の声がした。

「き、きき、着替えた!」

シャっと楽屋と更衣スペースとを区切るクリーム色のカーテンを勢いよく開けた先輩。


「わぁ…」

その姿に思わず感嘆の声が漏れた。


今日の先輩のドレスは裾が広がるAラインの淡い空色。ハイウエストの切り替えで、白いバラがいくつもついている、何とも爽やかなデザインだ。