天使のアリア––翼の記憶––



「藍羅先輩!」

いよいよ、今日は本番の日。

会場はお馴染み、駅前のコンサートホール__ジェーン・ビオラホール。

私と藍羅先輩は駅で待ち合わせることになっていた。

そして今こうやって駅で藍羅先輩と合流したのだが、勿論藍羅先輩は待っていてくださった。申し訳ない。

案の定寝坊した私は今日も駅まで走ってきた。けれど忘れ物はなはずだ。楽譜が入っていることをきちんと確認したから。

「おはよう、月子。良かったな、今日は集合時間に間に合っているぞ」

ゼイゼイと荒い息をする私を見てフッと笑った藍羅先輩。その笑顔がかっこよすぎて心臓が止まるかと思った。

あぁ、もう、先輩は私を殺す気ですか……!

「何ブツブツ呟いているんだ? 言っている意味は全く分からないけど、ほら行こう」

振り返って私に微笑んだ先輩の黒髪がふわりと風になびいて、思わずハッと息を飲むほど美しかった。

まるで時が止まったように、まるで映画のワンシーンのように、藍羅先輩だけが世界から切り取られような感覚に陥ってしまった。

駅構内の景色も、行き交う多くの人も、全てが白く霞んで、藍羅先輩しか見えない。

あまりに、美しすぎる。

「何ぼーっとしてるんだ」

既に私から数メートル先にいる藍羅先輩の声でハッと我に返る。

「あ、はい!」

私は藍羅先輩に追いつくためまた走った。

藍羅先輩は不意に尋ねた。

「月子、最近ずーっとぼけっとしているけど、何かあったのか?」

ドキリと心臓が跳ねる。

「え、えぇぇえっ!? そっそんなこと、な、ななな、ないですよ!?」

あぁ、自分でも呆れるほどの失敗だ。

こんなにもしどろもどろになってしまった。これじゃ、何かありますよと言っているようなものではないか。

あぁ、私って本当に馬鹿だ。

本当に馬鹿だ。