そして母が言っていた、あの言葉。

歌姫が誰なのかという問いの答え。

『…貴女のそばにいるわ…』

私のそばにいる人。

それで歌姫と呼ばれるほど歌がが上手な人。

それって、藍羅先輩しか思いつかない。

けれど私は首を左右の振って、頭に浮かんだ答えを否定した。

そんなわけがない。

だって、あの藍羅先輩だよ?

そりゃ、その美貌とか歌声とか、もう凄すぎるけれど、でも、どう考えたって、人間としか思えない。

それにあんなにも天然で鈍感で格好良すぎる上に綺麗すぎる天使なんて、普通いる?

ははは、と自分の考えを笑い飛ばして制服を着た。

ふ、と、時計を見れば、今すぐ朝食を食べて家を飛び出さなければ確実に遅刻してしまう時間帯だった。

それが分かった途端、自分が青ざめていくのが分かった。

今日は寝過ごしたわけではない。きっと今日見た夢のせいだ。感傷的になりすぎたのだろう。

いや、今となればもうどうでもいい。

急いで行かなければ、遅刻する。

急いで制服に着替え、ご飯を詰め込むと、学校指定のスクールバッグを肩にかけて家を出た。

言うまでもなく、全力疾走である。





「せっセーフ…っ!」

教室に駆け込めば、朝礼開始の2分前だった。良かった、何とか遅刻を免れた。

乙葉やウサギに挨拶する間もなく朝礼が始まった。

そのまま授業が始まってしまい、お昼休みになってようやく、友達と話すことができたのだった。

「おはようー。間に合って良かったねー月子ー」

隣で癒される、否、力が抜けるような声で話しかけてきたのは、言わずもがな我が親友、乙葉である。

今日のリボンは細身のものだった。濃いピンク色__薔薇色のギンガムチェック。ふんわり系の彼女には、もう、何だって似合うようだ。

「おはよう、乙葉! 何とかね…」

あはは、と笑って答えると、乙葉は眉を八の字に下げて呆れた顔をした。