「先輩、やっぱりすごいです」

「何がだ?」

先輩は私の言葉がさっぱり分からないという顔をしたが、私は先輩がいてくれて、本当に良かったと心から思う。

私だけはディナちゃんを救ってあげられなかった。

ディナちゃんを救ってくれたのは、間違いなく藍羅先輩だ。

藍羅先輩の言葉が、ディナちゃんの固く閉じられていた心を溶かしたんだ。

「ディナちゃん、大丈夫でしょうか…」

あの後、ディナちゃんは泣いて疲れたのかぐっすり寝てしまった。

私達も本番があるので、そのまま寝かせてきたのだけれど、ちょっと心配だ。

藍羅先輩は控室の椅子に座って、手を組み上に伸ばしている。

「大丈夫なんじゃないか? きっと今もぐっすりと寝てるだろうし、起きれば看護婦さんとか呼ぶだろう。 それに、今考えたって、あたし達には本番がある。すぐに何か行動を起こすことはできない」

月子も分かっているだろう、先輩がまっすぐ私の目を見た。

真っ直ぐな、あまりにも真っ直ぐなその目は、まるで私の心まで見透かされているようで、ドキリとした。

「そうですね…」

ディナちゃんは心配だけど。

私にできることは、何もない。


私にはウサギや乙葉、北斗先輩や七星先輩、デューク先輩のように、戦える力があるわけではない。

何もできない、ただの、落ちこぼれな夢巫女。

そんな私にできることは、ただ目の前の本番を全うすること。

先輩の歌を引き立てること。

ただ、それだけだ。

今できることを、精一杯する。

それしか、できないのだから。

「それに、ディナちゃんも言ってただろう? あたし達の演奏会に来ると」

だったら余計に頑張らないとな、と藍羅先輩は微笑んだ。

私も頷いた。

「今日の演奏会に来ていなかったら、帰る時にでもディナちゃんの病室に寄ってから帰ろう。だから今は……」

先輩はそれしか言わなかったけれど、その続きの言葉は分かった。

だから今は、自分達ができることをしよう。

きっと、そういうことなんでしょう?

私は先輩の目を見て頷いた。


そこで斎藤先生がやってきて、私達は顔を見合わせて頷き、ステージへと向かった。