「ディナは、ディナは! ふたりに、なかよくなってほしいの! むかしみたいに、おかあさんがいたころみたいに、みんなでなかよくしたいの! それなのに、それ、なのに…っ」

私は、涙を流す彼女に一体何を言ってあげればいいのか分からなかった。

二人とも、ディナちゃんのことを本当に大切に思ってるんだよ、とか。

きっと家族みんなが仲良くなれる日がくるよ、とか。

言ってあげたい言葉は沢山あった。

でもその言葉たちはどれも本当であるのに、どこか上辺だけの綺麗な言葉を並べた嘘のように感じられた。

根拠も何もない、ただの幻想のような、まやかしのような言葉に似ていた。

だから、私は何も言ってあげられなかった。

何一つ、彼女を救える言葉が言えなくて、ただ私はディナちゃんの背中をさすっていた。

訪れた静寂の中、


「辛かったな」


先輩が言った。

私とディナちゃんは顔を上げた。

「きっと今まで誰にも言えなかったんだろ? 一人で悩んで、辛かったな…」

ふわりと女神の如く優しく微笑んで、先輩はディナちゃんの頭を撫でた。

それが、合図だった。

「…うえ…っ」

ディナちゃんは、声をあげて泣いた。


彼女の抱える悩みは、彼女が背負うには重すぎて。

彼女の力では到底解決することのできないもので。

彼女もきっとそれを心のどこかで分かっていたんだと思う。

だからこそ、自分のせいなのに、何もできない自分を責めて。


でも、ディナちゃんはいい子だから、誰にも心配をかけないように。

その心を笑顔で覆って、その胸の内を誰にも見られることのないように。

今までずっと、そうやって隠してきたんだね。

きっと、きっと、私の想像以上に、彼女は傷ついていた。


私達はそれ以上何も言わず、ディナちゃんの背中や頭を撫でながら彼女を見守っていた。


先輩の手に握られていた淡い水色の写真立てに入れられた家族写真のお父さんとお兄さんは、とても幸せそうに微笑んでいた。