天使のアリア––翼の記憶––

先輩が登場した瞬間に、割れんばかりの拍手喝采。

お、お客様方、まだコンサートは始まったばかりで、先輩は何も歌っていませんよ…?


そんな相変わらずの人気に先輩は笑って応えるものだから、ますます拍手の音は大きくなる。拍手しているお客様の手を思わず心配してしまうほどだ。

拍手喝采は鳴り止むことを知らないらしい。アナウンスさえ通らないほどに熱は高まるばかり。


せ、先輩は一体どうする気なんだろう…?こんな中じゃ、伴奏のピアノの音はおろか、先輩の歌声すら聞こえない。コンサートが始められないのに…


すると先輩は息を吸った。何をするつもりなんだろう、と思うのと同時に聞こえた、声。

それが先輩のものだと分かった時には、天使の歌声とも称されるその美声が会場内を駆け巡っていた。


先輩の奏でる旋律は、よく聞くと私も知っている歌だった。私は椅子に座るとすぐに伴奏をつけた。

先輩の奏でるそのメロディは、まるで一本の線のように繊細で、でも決して途切れることなく、客席に、会場中に響き渡る。

決して大きな声ではないけれど、その美しい歌声は興奮状態のお客様の心にも届き、だんだんと興奮は収まっていく。


先輩、凄い…

注意することもなく、声を荒げることもなく、お客様を黙らせるなんて…

同じ高校生なのかな?こんなに、こんなに凄いことができるなんて…!


そして先輩が歌うのを止め、シーンと静まり返った会場に、再び拍手の音が響いた。暫くしてそれも収まると、お客様は先程よりは幾分落ち着いていた。


アナウンスが入り、最初の曲が紹介される。

それが終わると舞台中央にいる先輩が、その後ろにいる私の方を向きアイコンタクトをくれた。


それが始まりの合図。



私は心を込めて、一音一音を響かせるように奏でる。


先輩の声が全お客様の心に響きますように、と願いを込めて。


先輩の美声がより美しく聞こえるように、私は精一杯ピアノを弾き奏でる。

それが私に唯一できること。