天使のアリア––翼の記憶––

「華原さんをないがしろにするような態度に、星宮さんには手の甲にキスする真似まで…」

そうだよ、先輩の手の甲にキス…

「…真似!?」

真似!?あれは真似!?

「はい、すいません…」

「別に謝らなくていい。あたしは気にしていないから」

先輩がふわりと微笑むと、それなら良いのですが、と苦笑した斎藤というお医者さん。

「ど、どうしてそんな真似を!?」

私の問いに眉を下げた先生は話を始めた。

「はい、実は、私事ですが、数日後に結婚を控えておりまして…」

それはおめでとうございます、と祝福すると、ありがとうございます、と微笑んでくれたがすぐに曇った。

「相手がこの病院の看護婦なのですが…」

「それとこれと、何の関係があるんだ?」

藍羅先輩が問うた。

「この病院で、僕は、多くの女性から、あの…支持していただいておりまして、僕の彼女が言うにはファンクラブまであるそうで…」

つまりモテるということか。

確かに爽やかで真面目そうな、格好良く好印象を与えるお人ではあると思う。

おまけにお医者さんとくれば、もうモテない要素がないだろう。

「僕は結婚のことを公にしたいと思っていたのですが、それを知った他の女性が彼女に危害を加えるのではと思うと、どうしても言えなくて…」

項垂れる斎藤先生に、私達は、うんうんと頷いた。

確かにあの迫力で迫られれば、ちょっと、否、結構怖いかも。リンチもイジメも、決して考えられないことではない。

「彼女は寿退社をすると言っていましたので、せめてそれまで、僕達の秘密を突き通そうとしていました。

そのためには僕が誰か他の女性を好きになる振りをして彼女から少し離れるしか方法はないのでは、と思っていたところに、貴女が、星宮さんが目の前に現れたので…」

この麗しき藍羅先輩が相手では、もう誰も何も言えないだろう。諦めるしかないだろうな。

それは先程のキスの振りをした時に証明済みだ。