–––ジリジリジリジリ

「ふぇぇぇぇえええ!?」

いつもの如く目覚まし時計の音に驚いて起きればそれはいつも通りの朝だった。

「あれは…夢か」

ふぅ、と溜息を一つ吐く。

さっきまで見ていたあれは過去夢と呼ばれる夢の一種。実際に起きた誰かの過去、記憶を夢で見るのです。

因みに普段、夢巫女が仕事で見ることの多い未来の夢は、予知夢とも未来夢とも呼ばれています。夢で誰かの未来を覗くのです。

おばあちゃんのように一人前の夢巫女ともなれば、過去夢も予知夢も思うままに見れるのだけれど、半人前の夢巫女には、誰の夢か、いつの夢か、選んで夢を見る力などない。

どんな夢を見るのか、それは神のみぞ知る領域なのです。

私がさっき見たあの過去夢は、私の記憶、過去だった。

お母さんがなくなる数週間前、実際に起きた出来事。

あの時のお母さんの言葉は幼い私には理解できなかったし、高校生になった今でもよく理解していない。

何故あんな過去を今、夢に見たのだろう。

そしてお母さんは何故あんなことを言ったのか。

選べ、って、一体私に何を選べというの?

「って、いけない!」

時計の針を見て私は驚愕した。

今日は翌週行われる、大学付属病院でのコンサートの打ち合わせがある。藍羅先輩と待ち合わせをしてバスに乗って病院に行く予定だ。

もし万が一にも遅れてしまったら、呆れられて愛想尽かされて…待っているのは地獄だ。考えただけで寒気がする。

「急がなくちゃ!」

私は急いで制服を着た。特に指定などないけれど、私服__和服を着ていたら走れない。絶対遅刻してしまう。

手帳に筆箱など必要なものを鞄に詰め込み服装を整えるとすぐに家を出た。







「先輩!」

走って行くと、

「おはよう、月子」

微笑みをくれた先輩。朝から何という美しさなんだ。

「おは、よう、ございます!」

息が切れるため、途切れ途切れに言葉を繋ぐ。

走ってきたために折角整えた服装はもう乱れている。リボンなんて斜めになっている始末。おばあちゃんが見ればまたみっともないと叱りそうだ。

「走ってきたのか?そんなに走らなくても良かったのに」

「走らなかったら確実に遅刻すると思ったので!それにバスに乗り遅れたら大変ですし!」