「…もういいです。もう、いいですから」

考えるのも疲れた。あれから何曲か童謡を選曲した先輩に全力で突っ込んでいたから本当に疲れてしまった。もう今更突っ込む気になれない。

そんな私など露知らず、ふーん、とまた前を向いた先輩の隣を歩く。

結局、コンサートで歌う全ての曲はクラシックの曲から選ばれた。

子の選曲は、コンサートで映え、尚且つ癒される曲といえばクラシックが妥当だろうという私の考えに基づいている。

ただ、入院する小さい子向けにも別にコンサートをすることになり、そこでは童謡を歌うことにして、それで折り合いがようやくついたのだ。

ここに至るまでどれだけ苦労したことか。

「送って行こうか?」

はっと気づけば先輩との分かれ道に来ていた。

先輩の方を見ると眉を少し下げた先輩の顔が街灯に照らされていた。

「この前みたいに危ない輩がでたら困る。月子に何かあったらと思うと心配でならないんだ」

先輩の台詞が格好いい。

どうして先輩はそこら辺の男子より格好良くて、そこら辺の女子より可愛いのだろう。

「ありがとうございます。でも、私は大丈夫です。それより私は先輩の方が心配です! 先輩は美しすぎますから!」

私がそういうと意味が分からないという表情を浮かべた先輩。

自分の美貌を理解していないのだろうか。まぁ、先輩ならあり得るかもしれないけど。


「気をつけて帰れ」

「先輩も」


街灯の下で手を振り分かれてそれぞれ家路についた。