天使のアリア––翼の記憶––

その睨み一つで人を殺してしまうのではないかと思うほどの強い意思と殺意を感じた。

味方であるはずの私ですら恐怖のあまり動けなくなった。

先輩はユラリと片腕を持ち上げた。

「な、んだ…?…!?」


「その汚い手で触るな」


先輩はだらりと持ち上げられた腕に力を入れ、その手のひらを男の方に向け、カッと目を見開いた。

その時、一瞬だけ、両目とも髪色と同じ漆黒であったはずの先輩の右目がまるで満月のように、黄金に光り輝いているように見えた。

「お、お前、まさか…っ…!?」


「散れ」


そしてデューク先輩は男を蹴り飛ばすと同時に藍羅先輩の手を引いてふわりと自らの腕の中に収めた。

男の方はというとさっきの一撃のおかげで失神していてピクリとも反応しない。

チラリと先輩が残りの輩を無言で睨むと、ピキッと音を立てて固まった。


「…お前ら、竹取会だったな。ボスに言っとけ、この子らに手ェ出すなと。

もし手ェ出したら…俺が全員まとめて再起不能にしてやると」


ぞくりと背筋に寒気が走る。

心臓を鷲掴みにされたように鼓動が痛く、先輩の怒りオーラで潰れてしまいそうだ。

これがあのデューク先輩なのだろうか。

いつも藍羅先輩に好き好き言って、乙葉に負けず劣らずのふんわりとしたオーラでイチャついてる、あのデューク先輩なのだろうか。

まるで別人のように冷たい表情をしていて、普段のデューク先輩と同一人物だとは到底思うことはできなかった。

他の男2人は震え上がりすっかり怯えて、失神した男を引きずり逃げ帰った。



「先輩!」


男達が完全にいなくなったのを確認してデューク先輩の元に駆け寄ると、先程と打って変わって優しい笑みをくれた。

その優しい瞳は両方とも漆黒で、やはり先程の瞳の色は単なる私の見間違いだったと知った。

先輩のすぐ横に設置されていた街灯のせいかもしれない。

「月子ちゃん、大丈夫だった?」

私が頷くと、良かった、と微笑んだ。そしてぎゅっと藍羅先輩を更に強く抱きしめた。

その瞳は哀しみを帯びていた。