天使のアリア––翼の記憶––

「その小娘を渡せ」

前方にいたもう一人の男がニヤリと余裕な笑みを浮かべた。

仲間一人がやられているのにこの余裕は何なの?

「渡すわけがないでしょ?」

デューク先輩は呆れていた。

「じゃあこいつがどうなってもいいんだな?」

後ろから勝ち誇ったような声がして振り返れば、

「あ、藍羅先輩!」

男に捕まってしまった藍羅先輩が悔しそうな顔をしていた。

先輩の首に回された男の腕が締まる。このままでは先輩が窒息してしまう。

「……悪趣味だな」

先輩の苦い呟きが聞こえた。

「こいつを解放してほしければ大人しくその娘を渡せ」

男はニヤリと汚く笑った。

腕の力は更に強くなるようで、声こそ漏らすことはないけれど先輩は顔を少し歪めた。

私のせいだ。

私が先輩を巻き込んでしまったんだ、こんな危険な目に合わせてしまったんだ。私のせいで。全て、全て私のせいだ。

悔しくて、情けなくて、ただ拳を握った。

体中に蔓延するような罪悪感に駆られながらも必死で考える。

どうすればいい。どうしたら、どうすれば先輩を助けられるの。

私が大人しく捕まればいい?

そうしたら先輩を解放してくれる?

それしか方法はないと決意したその時、


「…せ…」

声が聞こえて後ろを振り向くと、デューク先輩は下を見たままゆらりと一歩前にでた。

ぞくりと鳥肌が立った。

「何だぁ?聞こえねぇぞ?てめぇ何つ…」

「離せ」

男の言葉を遮り、先輩はギロリと睨みつけた。無表情だが怒りを宿したその瞳には強い殺気が灯っていた。燃えたぎるようなその怒りは瞳だけでは収まらず、オーラとなって先輩の周りを覆っている。



先輩は今、間違いなく


激怒している。