天使のアリア––翼の記憶––

「そうなのよ。デュークはうちに居候、いえ、転がり込んでいるの。ね、デューク?」

意味深な目でデューク先輩を見つめる七星先輩。

「ん? 何かな?」

しかしそんな七星先輩の瞳に動揺することなく、いつも通りの爽やかな笑顔で返したデューク先輩。

「さあね?…って、北斗、まだここは家ではないわ。立ったまま寝ないで」

「…眠い、仕方ない」

「仕方なくはないでしょ? それに眠いからってこんな街中で寝ないの。…"あの方"に怒られるわよ?」

「…それ、嫌」

先輩は完全に目覚めたらしい。背筋がシャキッと伸びている。

あの方、がよく分からないが、かなり怖い人物らしい。

「じゃあ、月子ちゃんは今から帰宅ってことかな?」

デューク先輩の問いに私は頷いた。

すると「送るよ」先輩は歯を見せて笑った。

その爽やかすぎる笑顔に一瞬魅入ってしまいそうになったが、我に戻れと脳が命令したので助かった。

「い、いや、そ、それは悪いですよ!」

先輩に送ってもらうなんて恐れ多すぎる。迷惑をかけてしまうではないか。

けれど「送るよ」先輩はもう一度言った。

「女の子が1人でこんな暗い夜道を帰るなんて危ないでしょ? それとも、走って逃げるから大丈夫、なんて思ってる?」

図星、だった。

そのつもりだったし、そうでなくても私を狙うような物好きはいない。

「それに今月子ちゃんは着物を着て、花を抱えている。そんな状況なのに走って逃げるなんて本当にできると思う?」

「そ、それは…」

確かに着物で走るなんてできないし、仮に走ったとしても追いつかれるのは必至だろう。

「もし俺に気を遣ってるならいらないよ。藍羅も送って行くつもりだから」

「え、あ、あたし?」

藍羅先輩は驚いたように声をあげた。

「あ、あたしはいい! 大丈夫だから!」

「大丈夫じゃないよ。こーんなに可愛いんだもん、危険に決まってるでしょ?」

「大丈夫だ。ていうか、か、可愛いとか、い、言うな!」

どもった藍羅先輩の顔は真っ赤で、まるで熟れたリンゴのようだった。なにこれ可愛い、可愛すぎるんですけど!

「照れてる照れてる」

クスクス笑うデューク先輩に、

「て、照れてない!」

突っかかる藍羅先輩。あぁ、だからもう先輩方はバカップルですか。

「そういうツンツンした藍羅も好きだよ!」

「だからあたしをからかうな!」

藍羅先輩はさらに顔を赤く染めてデューク先輩に反抗した。


あぁ、誰かこのバカップルを止めてください。