天使のアリア––翼の記憶––

「こんばんは、先輩方」

後ろからそう声をかけると、

「あれ、月子?」

真っ先に気づいてくれたのは、私の尊敬して止まない藍羅先輩だった。その瞳は驚いているようで、大きな瞳が更に大きくなっている。そんなに驚かせてしまったのかな。

「あら月子ちゃん、こんばんは。」

にっこり微笑んだ姿が人間離れしている七星先輩。

白地に紺のボーダー柄の膝丈ワンピースがとてもよく似合っている。そしてその隣で、

「…こんばんは。」

牛乳瓶の底のようなレンズのの下に魅惑的な瞳を隠している北斗先輩。

眼鏡を外せばモデルのように格好良くなるだろうに、とダサダサな格好をしていることを残念にも思うが、彼の恐ろしい美貌のことを考えると仕方がないのだろう。

「こんなところで会うなんて奇遇だね。」

すっかり日が暮れた中でも分かるほど爽やかで上品な笑顔をくれたのは、言うまでもなくデューク先輩だった。

ハーフだと言っていたが、きっと日本人の親さんの遺伝子を濃く継承したのであろう黒髪と黒い瞳に一番星が反射して煌めき、綺麗だと素直に思ってしまった。

「その手に持ってるのは花束かしら?綺麗な色のバラね。」

七星先輩は私の手元の花を見てうっとりと目を細めた。

「家で生けようと思って」

「月子が?」

横から飛んできた藍羅先輩の問いかけに苦笑いして答えた。

「いえ、私ではなく祖母が」

私に花を生けるセンスがないことは十分知っている。

生けられた花が可哀想だと花を生ける度に言われてきた。

私は運動神経だけでなく、芸術センスも皆無なのである。

悲しいことに、音楽においても歌えば音程が飛んでいき、金管楽器や木管楽器を吹こうとするも音は全く出てこない。リコーダーは指使いが一つも覚えられず、弦楽器を弾けば必ず弦が切れる。 そう、ピアノくらいしかまともに奏でられるものがないのだ。

センス、才能、そういった類のものを私に求めてはならない。

「…民族衣装、なぜ。」

北斗先輩の眼鏡のレンズが街灯に反射して光る。

民族衣装、か。今まで意識してこなかったけれど言われればそうだ。

「普段着なんです。」

私は嘘はついていない。ちょっと信用できないかもしれないけれど、これが私の普段着。私服。

その理由は話せないけれど。

「…そう」

それ以上関心がないのか、北斗先輩はそれ以上は聞かなかった。