天使のアリア––翼の記憶––

「折角途中まではちゃんと集中できていたのにねえ。」

溜息とともに吐き出すように暦様は呟いた。

あーはいはい、すいませんね、集中が途中で切れて! どうせ私は落ちこぼれですよぉ!

そう心の中で反論しかけて、思考回路は一時停止した。

ちょっと待って。

さっき、暦様は何と仰った?

もしかして、折角途中までは集中できていたのに、って仰った?

「それって…」

どいうこと? そのお言葉は褒め言葉だと捉えて良いの?

暦様の言葉に戸惑いながらも、心は雲間に覗く日の光のように晴れていくようだった。

だって良かった、だなんて、そんなこと、初めて言われた。

初めて、褒められた…!

そう思うと嬉しくてつい口元が緩んでしまった。

「何をニヤニヤしてるんだい? さっさと修行に戻るよ」

暦様はまるで得体の知れないエイリアンでも見るように私を見ていた。 そんな目をしなくたっていいじゃない。

「さ、もう一度精神統一からだ」

暦様にこのような威圧感たっぷりの声色で言われたならば、

「はい…」

逆らうことなどできないのだ。

溜息を一つ吐いた。

え? 暦様の特別修行はそんなに厳しくないじゃないかって?

これだけ見れば、確かにそうなのかもしれない。

特別なトレーニングさえ、これといって無い。

けれど、何が辛いって、ずっと精神統一をすることだ。

精神を安定させ、私情を排除し続ける。

これがかなり疲れる。

精神が揺らげば先ほどのように怒られ、修行が終わるまで休む暇など与えられない。

こういったやりとりが日が暮れるまで続くのだ。

あぁ、考えただけで胸が痛い。苦痛だ。本当に苦行なのである。

「始め」

暦様の一言でまた苦行が始まった。