「早く朝ご飯お食べ。今日は…」

「分かってる!」

今日はおばあちゃんによる特別スパルタ修行がある日なのだ。そのため休みの日なのに早起きしたのです。とほほ。

「分かってるなら良いんだけどねえ。」

そう微笑んでお茶を啜ったおばあちゃん。上品すぎる。

しかし、これが修行になると豹変するのだ。おばあちゃんは普段は優しいけれど、修行となると人が変わったように恐ろしくなる。考えただけで寒気がする。

あぁ、これから行われる修行のことを思うと溜息しかでてこない。

「そうそう、月子は今日一日中暇なんだろ?」

「暇になるように努力したよ。本当は今日は先約があったんだけどね。」

私は口を尖らせて答えた。

本来なら今日は藍羅先輩と次の演奏会の練習をする予定だったのだ。それは前々から決めていたことだった。

その日とおばあちゃんの特別修行の日が被るだなんて、それを知った私には絶望しかなかった。泣きかけた。

しかし、おばあちゃんのスパルタ修行は断れない。これはどうしても、何があっても、絶対に参加しなければならない。これは我が家の、夢巫女の血を引くものの一種の宿命なのだ。

それで3日前、藍羅先輩に切腹覚悟で謝りに行った。愛想尽かされるかとひやひやしていたのだが、あの藍羅先輩ときたら、用事があるなら仕方が無いな、と美しすぎるあの笑顔で承諾してくださったのだ。その笑顔といえば正しく天使、否、女神だった。

あぁ、あの笑顔を思い出しただけで幸せな気分になれる。

「そうかい。じゃあ今日は予定がないんだねえ。」

「そうなるね。」

おばあちゃんはニコニコと上品な笑顔を浮かべている。何が言いたいのだろう。

おばあちゃんはお茶を一口啜ると、

「私も今日は用事がないのさ。だから今日は久しぶりに一日中修行できるねえ。」

そう言った。

その瞬間、お茶碗をかきこむようにして食べていた私の手が止まった。音も時間も、何もかも止まったような感覚がした。