その、暖かく柔らかな笑顔に、紗波は惑わされる。



祐輝の吐いた白い息は、儚く散る。



いつもは真っ白な祐輝の顔色が、心なしか赤い。



「…今の、汚れきった、久岡を苦しめる現状を変えろ。…久岡が、理不尽に悩む必要なんざねえんだよ」



祐輝が、コートの下に隠れる紗波の右手を取ると、白銀の中を連れ立って歩く。



「今日、絶対に決着つけろ。俺は側に居るから。…現状を変えるのは、久岡だ。俺は余計な口出しをしない」



優しい温もりに包まれた右手と、白い雪に触れた冷たい左手。



紗波の身体から、力が抜けた。



「…場所はどこだ?」



銀林を通り抜け、駐車場に戻ると、バイクにまたがりながら祐輝が聞く。



白い雪に囲まれて、紗波は言った。



「…大空ホール」



灰色の雲の割れ目から、青空がパッと白雪を照らし、輝かせた。



「…よし。乗れ、行くぞ」



雪林と灰空、白服で着飾った山々に、バイクの音が呼応する。



紗波はギュッと力を込め、祐輝の大きな身体を抱き締めた。



(…っ…)



通りを歩く人々が、そんな高校生二人を、物珍しげに眺めている。