紗波が、首を振る。
「ごめん、私 遊べないや。今日、お母さんに真っ直ぐ家に帰って来いって、言われてて…」
紗波が、申し訳なさそうに笑いながら、頬を掻いた。
小百合はそれを聞いて驚いたが、友達は肩を落としただけだった。
「無理かぁ…じゃ、小百合ちゃん!二時に、文宮公園に集合ね!」
「う、うん」
「じゃあね、バイバイ!」
紗波はその友達に手を振ると、小百合に歩くのを急かした。
「早く帰って来いって言われたんだ…小百合、早足で良い?」
そう言いながら、もう二人とも早足になっている。
小百合が、コクンと頷いた。
校門を出ると、爽やかな風と共に、見守り隊のお爺さん達に暖かい声で出迎えられる。
その一人一人に「さようなら」挨拶をしながら、二人は道を歩いた。
小百合が、さっきの事を話題に話しかける。
「紗波ちゃん、遊べないの?」
「うん、用事があるらしくってね」
その顔には若干、残念という心がにじみ出ている。
「そうなんだぁ…残念だね」
「うん。明日は遊べたらいいんだけど」
そして、その次の日も、紗波は遊ぶのを断って家に帰った。
たまに、小百合が夜、ベランダに出ると、隣のとなりの家のカーテンに写る、二つの影が見えた。
一つはカーテンの側に立ち、一つは何かテーブルに突っ伏しているようだ。
小百合はその影が何をしているのか解らないまま、十ヶ月が過ぎた。
何度 紗波に遊べない理由を聞いても、
「ちょっと用事で」
としか言わない。
この頃から、紗波から笑顔が消えたのを、小百合はいつも不可解に思っていた。
そして、ある日の夜。



