いつもの彼は、ファンに優しい。

声援には笑顔で手を振り、話し掛けられたら一言二言会話する。



そんな彼が、纏わり付くファンの女子に、冷たい視線を向けていた。


睨む目付き…蔑む視線…


キャアキャア言ってた女子達も、彼の異変にやっと気付き、騒ぐのを止めた。



ファンを無視して彼が足早に向かうのは、屋外水飲み場。


全開に捻った蛇口に頭を突っ込み、先程言った通り、頭を冷やしていた。




ゆっくりと近付く。
彼はまだ私に気付かない。


ずぶ濡れの髪で顔を上げた時、サッとスポーツタオルを差し出した。




「… 愛美ちゃん…」



名前を呼んでくれた。
でも、タオルは受け取ってくれない。


ファンの子に向けた冷たい視線を私にも向け、雫が垂れる髪のまま背を向けてしまった。