黒愛−kuroai−

 


楽しそうに笑う母親は、焦る私の手から手紙を抜き取った。



俯いてなるべく顔を記憶に残さないよう努めながら、

ペコリとお辞儀し、自転車で立ち去った。



自転車を数分走らせると、落ち着きを取り戻した。


名前を聞かれた訳じゃない。
声を聞かせてもいない。

顔は…少し見られたけど、数日経てば忘れてしまうだろう。



あの封筒は、これから起きてくる柊也先輩に渡される。



『知らない女の子が、ファンレター置いて行ったよ』


母親から伝わる情報は多分それだけ。



大丈夫。
排除計画に大きな狂いはない。





 ◇◇


写真を渡した日から3日間、柊也先輩は学校を休んだ。