黒愛−kuroai−

 


「呆れた?」

私を見ずに床に向けて聞くのは、怖がっているから。

嫌われたんじゃないかと、恐れているから。




「呆れました」

そう答えて、繋いでいる彼の手にキスをした。



彼は驚いていた。

目には驚きを…
口元には、隠し切れない笑みを浮かべていた。




「呆れますよ。そんなことで困っているなんて。

私が先輩を嫌いになる事はありません。

彼女がいても、振られても、ずっとずっと大好きです。


そうだ!私と連絡先交換してくれませんか?

テニスの応援に行けない日は、理由を書いて送信します。

そうすれば不安にならないでしょう?

それ以外でしつこくメールしたりもしません。

彼女さんと喧嘩になったら困りますもんね」




笑顔でそう言ってあげると、予想通り彼は心打たれたみたい。



体を引き寄せられ、胸の中に抱きしめられた。


白いワイシャツから、シトラスの爽やかな香りがする。


私よりも速い鼓動が聴こえた。




「ヤバ… すげー可愛い…
そんな健気な態度見せられたら…惚れてしまいそう…」



「柊也先輩…
また思わせぶりなこと言ってますよ?」



「分かってる…
俺って、最低な正直者…」




“惚れてしまいそう”
だって。


それは間違い。
柊也先輩はもう私に惚れている。



彼は優しいから、二股かけそうな自分に困っていることだろう。



大丈夫だよ。
すぐに清宮鈴奈を排除してあげるから。


彼女への愛を
ズタズタにしてあげる…