黒愛−kuroai−

 


柊也先輩に連れられ移動したのは、1階北側にある“生物化学室”


中に入ると空気がひんやりして気持ち良い。




「ここ、夏の穴場。
涼しいし誰もいない」



人がいない理由は、多分コレ。

ヒキガエル、蟯虫、ネズミ…棚に並ぶ標本達。

人体模型“ミツオ君”も、内臓を晒して立っている。




涼しくても、女子ならここは嫌がるだろう。


「平気?」と聞く先輩に、

「見ないようにしますから平気です」と微笑み返した。




本当は、全く気持ち悪いと思わない。


子供の頃、車に轢かれ内臓が飛び出した猫を1時間眺めていた。

蛙を握り潰したこともある。




壁に背をもたれ、ひんやり冷たい床に並んで座った。



二人切りの空間が楽しい。
声を弾ませ話し掛ける。



「柊也先輩!
私がいない事に気付いてくれたんですね!」



「すぐに気付いたよ。
毎日見る顔がいないと、景色が違って見える。

最初の数日は用事があるのかと思ったけどさ、2週間も来ない…何してた?」



「えっと…短期のバイトを始めて…

でも、もうすぐ終わります。
そうしたら、またテニスコートに通います」




バイトと言うのは嘘。

放課後は清宮鈴奈の尾行に忙しいだけ。



それももうすぐ終わる。
彼女について、大方のリサーチは済んだから。