意識を取り戻した日の夕方、

帰って行く母と入れ違いに、見知らぬ中年女性がやって来た。



手にはお見舞いの花束。

複数骨折で、起き上がることの出来ない私を見て、彼女は涙を流す。



この人は誰だろうと、首を傾げる私に、深々と頭を下げ謝った。




「ごめんなさいね…

柊也が…柊也が…とんでもない事して…

妊娠させた上に、心中なんて馬鹿な事を…

本当にごめんなさい…」





その言葉で、この女性が柊也先輩と言う男の母親だと知った。



疲労の濃い顔で悲しみの涙を流し、謝り続ける彼女。


謝られても、彼に関する一切の記憶がないので、ピンと来ない。



“妊娠、心中”

その言葉を、他人事のように聞き流した。