自販機の前で、
「何がいい?」と聞かれた。



「いらないです。
喉渇いていないので」



そう答えると、彼の頬がピクリ強張った。

“いらない”と言った、私の返事が気に入らないみたい。




買ってあげると、しつこく食い下がる彼に、笑顔で聞いた。




「そんなに私に、ジュースを飲ませたいのですか?
どうして?」




彼は言葉を詰まらせ、取り繕うように笑って見せた。




「じ、じゃあさ、俺だけ何か買うから、愛美はその間、店の中でも見ていなよ」




釣り具に全く興味がない。

それなのに、強引に店の中に押し込まれた。




“なぜ”と思わない。
“怪しい”とも思わない。



自販機のドリンクを買うと言う単純な行為に、“時間と手間”を掛けたいようだから。