冷たい海風が吹いていた。

黒髪が風に流され、視界を遮る。



切り立つ崖の上、
隣を見ると、彼が真顔で私を見つめていた。



手を繋ぎ、
崖の淵ギリギリまで進み出る。



眼下にはゴツゴツとした岩肌と、砕け散る波しぶき。




彼が聞く。

「どうして笑っているの?」



私が答える。

「嬉しいから。
これで永遠に一緒だね」




断崖絶壁から一歩前へ。

宙を踏む足

傾く体

海に向け垂直に落下して行く。




一緒に落ちる筈だった。

永遠の愛を約束していた。




それなのに…

繋いでいた手は離されていた。




落ちながら崖上を仰ぎ見ると、

逆光の中、ニヤリと笑う口元が見えた。




落ちるのは私だけ…?

ううん…




“ソウハ イカナイヨ”