『いない……』
『わしらのあるじ、いない』
『けれど、うまそうな人間がいる』
タヌキのくせに、話してる。
あるじっていうのは、オロチのことだろう。
うまそうな人間っていうのは、もしかして……。
『食う!』
タヌキはあたしに向かって、どたどたと走ってきた。
うええええん、やっぱり~!
「させるか!」
雷牙が、あたしの前に出る。
そして、その手を天にかざした。
すると、晴れていた空に突然黒い雲がかかる。
稲光が目を焼く。
思わず目をつむると、ゴロゴロと大きな音が周りの空気をしびれさせる。
音がいったんやんで、おそるおそる目を開けると……。
「……えっ?」
なぜか雷牙の手には、黄色と黒の二色づかいのボディのエレキギターが。
な……なんで?
たしかに雷牙、軽音部だけど……なんで今ギター?
そんなことを聞く間もなく、雷牙はどこからとりだしたのかピックを持ち、肩からかけたギターの弦を、思い切りダウンストロークする。



