『あ……うぅ……』
「つらかったのだな。
苦しかったのだな」
四郎くんの声に、甘さが戻ってくる。
聞く者を酔わせるようなその声音が、あたしの耳にも優しく響く。
「このまま、天に帰るがいい。
もうやり直しはきかないのだから……
次の生を、幸せに生きろ」
十字架の杖から、目を開けていられないくらい、まぶしい光があふれる。
その光は温かく、あたり一面を包んだ。
薄く開けたままの目に、幽霊の顔がうつる。
彼女は青白い頬に一筋、涙を流していた。
そして天を仰いだと思うと、少しずつ光の中に、姿を消していった。
「……ただの幽霊だったようだな……。
すこし長い時間この世に漂っていて、あのような妖怪の一歩手前になってしまったんだろう」
四郎くんはそう言うと、十字架の杖から手を離す。
それは一瞬で小さなサイズになって、彼のてのひらにおさまった。
何もなくつるりとした杖のときとは少し違う。
小さくなったそれは、ごつごつとした装飾と太い鎖のついた、金のロザリオだった。



