『…こせ……』
生きている人間の声と言うよりは、すきま風のような音が、彼女の青い唇から漏れる。
なんて言ってるんだろう。よく聞こえない。
なんて、耳をすませたのが間違いだった。
聞こえてきたのは、まるで魂を吸い出すような、邪悪な引力をもった声。
『その体、よこせ……っ!』
幽霊はそういうと、両手の爪を光らせ、空間を滑るようにしてこちらに向かってくる。
「や……っ」
どうしよう。
あたしは思わず、四郎くんの制服の背中のあたりを、ぎゅっとつかむ。
すると、四郎くんはまったく怖がる様子もなく、片手を教会に向けてのばした。
「止まれ!これが見えんか!」
四郎くんの低い声から甘さが抜ける。
その声に反応し、幽霊は動きを止めた。
あたしは驚いて四郎くんの手を見る。
すると彼の手から、金色の糸のような『気』が立ち上っているのが見えた。
すごい……あたしとは比べ物にならないくらい、強い気だ。



