「さて……」
うどんを食べ終わると、天草さんは箸を置いてあたしを見つめる。
もうすぐお昼休みも終わり。
そろそろ教室に戻らなきゃ。
「あの天草さん、あたし……」
「それやめろ」
「えっ?」
「天草さんっていうの。
天草は地名であって、我の本当の名前じゃない」
「そう……なんですか?
じゃあ、何て呼べば……」
『天草』って言われるたび、悲惨だった故郷を思い出すのかもしれない。
そんなふうに思ったあたしは、下手に出た。
「四郎でいい」
四郎。
……お顔に似合わない名前……。
「四郎……さん?」
「……違う。あの兄弟と同じように」
スサノオ兄弟のこと?
雷牙は同い年だから呼び捨てだけど、さすがにこの人を呼び捨てにするのは……戸惑う。
「じゃあ、四郎くん?」
風牙くんは幼なじみで、小さい時からずっとその呼び方だった。
だけど、思えば、スサノオ兄弟以外の男子を名前で呼ぶなんて初めてで……。
なんか、こそばかった。



