「美心(みこ)、うまそう」


そう言うと、風牙くんはあたしの手のひらをペロリとなめる。


「ひええ!」

「あっ、ずるいぞ兄貴!」


と言いながら、雷牙は雷牙で、あたしの顔のチョコレートを狙っていた。


「や~め~て~っ!」


あたしは2人を振り切り、女子トイレに走る。


顔を洗うと、背後からしくしくと泣き声が聞こえた。


ぎくりとするけど、もう遅い。


『助けて……』


声と共に鏡に映ったのは、青白い顔の、いかにも不幸そうな女の子。


しまった。この人がいるから、いつもはこのトイレを使わないのに、忘れてた。


「ごめんなさいっ、あたしは霊能者じゃないので、お念仏も何も知らないんですぅぅ~!!

お力にはなれません~!!」


背筋が凍りそうなほど、寒い。


あたしはメイクし直す暇もなく、トイレから全速力で逃げ出した。


「もうイヤだぁあ~!」


あたしは神崎美心。

花の高校1年生。


ちょっと人より霊感が強いせいで、やたらといろんなものが見えて、困っています。


それ以外は普通です。


顔も頭も運動神経も平均点の、普通の女の子。


……普通のはずなんです。