なあ……美心。


お前は、怒っているだろうか?


お前の心を奪ったまま、勝手に離れる決断をした我を。


でも我はどうしても、お前に生きてほしかった。


ふわりと甘い香りのする、お前を取り囲む空気。


一緒にいるだけで、自分が浄化されるような気がした。


手をつなげば温かくて、抱きしめれば柔らかくて。


守りたかった。


泣かせたくなんか、なかった。


もっと……一緒にいたかった。


ああ……楽しかったな。


平和な世界で、着なれない服を着て。


見たこともないものを見て、食べたこともないものを食べて。


その隣には、いつもお前がいた。


あの祭りの夜のことを、お前は覚えているだろうか?


クマのぬいぐるみを抱えたお前は、まるで子供のようだったな。


だけど、あのとき初めて、お前は我に嬉しそうに笑いかけてくれたんだ。


いつも、どこか戸惑ったような顔をしたような、お前が。


リンゴ飴で赤く染めた花のような唇で、帰りたくないとだだをこねた。




お前は……きっとどこかで、わかっていたんだな。


違う時代に産まれてしまった我らが、結ばれることはないのだということ。


いつか、当然のように別れが来るのだということを。