「何すんだよ兄貴!
本気で置いていく気かよ!」
雷牙が泣きながら抵抗すると、風牙くんは眉間にシワをよせ、怒鳴った。
「俺だって……!
俺だって、こんなことは認めたくない。
けれど」
風牙くんの視線の先には、ドアくらいの大きさのブラックホール。
まるで風に揺れるろうそくのように揺らめいて、今にも消えてしまいそう。
そうだ……四郎くんの作ったものは、四郎くんが力尽きたら、消えてしまう。
そうしたら、あたしたちは永遠に平成の世には戻れなくなる。
「二人とも、行って。
あたしは残る……!」
「ダメだ、美心。帰るんだ」
「いやっ、いやだ!
帰らない!四郎くんと一緒にいる!」
「美心っ!」
まるで子供のようにダダをこねるあたしの頬を、風牙くんが打った。
ぱしんと、軽い音がした。
「ここにいたら、お前も死ぬだけだ!」
驚きで一瞬涙が止まった視界に見えたのは、燃える城から吐き出されて天に昇っていく、黒い煙……。



