現実が遠ざかり、目の前に見たこともない景色が広がっていく。
あたしたちが生きていた世界とはまるで違う。
そこは、ビルもお城もなくて、ただ森だけが広がっていた。
あたしの意志を無視し、視界が誰かを探しているかのように動く。
するとある木の下で、ひとりの女の子が立っているのを発見した。
その子は髪が長くて、薄い桃色の着物を着ていた。
ふとこちらに気づいたかと思うと、嬉しそうに微笑み、近寄ってくる。
可愛らしい表情に、思わずあたしの表情も緩みそう。
……どうして?
あたしは、彼女に初めて会ったはず。
なのに、この愛しさにも似た感情はなに?
誰のもの?
もしかして……これは、オロチの記憶?
視界に、彼女を引き寄せる自分の手が映る。
それは太い血管が走る、たくましい男の人の手。
その手が彼女を抱きしめれば、胸の中に温かいものが広がっていく。
ああ……あなたは、この女の子が好きだったんだね。
もともとオロチは、山の神だったと聞いたことがある。
だけど手の中のこの子は、普通の人間の女の子みたい。
黒目がちな瞳、主張しない小さな鼻……誰かに似ている。
まるで、あたしみたいな……。



