四郎くんは兄弟の文句なんか聞こえないようで、ぱくぱくとお弁当を食べていた。
あ、もう終わった。
お茶を飲んでぷはーとか言ってる。
お弁当箱はからっぽで、あたしは嬉しくなった。
「おいしかった?」
「うむ。けっこうな味だ」
「よかった」
なんか偉そうだけど、一応喜んでもらえたみたい。
あの夜かわしたキスは……今では、夢だったのかな、なんて思う。
目覚めたとき、四郎くんはいつもの俺様で。
あの夜のことを口にすることは、いっさいなかったから。
ただ、どうやって綺麗にしたのかはわからないけど、あの日もらったクマのぬいぐるみだけが、あたしのベッドに置いてあった。
「なにそれっ、愛妻弁当?」
ぼんやりしていたあたしに、突然話しかけてきたのは。
「な、奈々ちゃん!」
「おいしそー!すごいね、美心。
愛にあふれてるねっ」
「ちょっと!」
奈々ちゃんの顔からは、罪悪感がいっさい感じられない。
だから、余計にたちが悪いよ。