「自分を否定するということは、自分を好きでいてくれる人たちをも否定するということなんだぞ。
お前は槙原坊やのことを、趣味の悪い男だと思うのか?」
「まさか……そんなこと」
「では、胸をはっておれ。
余計なことは気にするな」
四郎くんはそう言うと、あたしの手を引き、歩き出す。
その歩幅はさっきよりずっと狭くって、なれない下駄でも、楽についていけるほど。
……もしかして、あたしに合わせてくれてる?
今度こそ本当に、涙がにじみそうになってしまった。
厳しいけど、本当は優しいんだね。
「そこらじゅうからいいにおいがするな。
美心、どれから食べる?」
振り返った四郎くんは、もう怒ってなんかいなかった。
無邪気な子供みたいな笑顔で、あれはなんだこれはなんだと、次々に食べ物を指さす。
あたしは彼に手を引かれるまま、いつの間にかお祭り独特の雰囲気に飲み込まれていた。



