「言っておくけど、冗談ではないから」
槙原くんはそんなことを言う。
「あ、あわわ……」
憧れていた人の突然の申し出に、どうしていいのかわからなくなる。
はーい、一緒に帰ります!なんてわけにもいかなくて……。
熱くなる頬をそのままに、奈々ちゃんの方を見る。
もう電話終わったかな?
「……え?」
振り返ると、奈々ちゃんはスマホを持ったままぼんやりしていた。
電池が切れたおもちゃのロボットみたいに、固まっているように見える。
「どうしたの?」
どう見ても正常じゃない彼女の様子に、自分のことなんてすぐに忘れてしまう。
駆け寄ろうとした瞬間、奈々ちゃんの頭に、ふっと黒い影がよぎったのが見えた気がした。
影は彼女の頭の上をふわふわしたかと思うと、額に吸い込まれていく。
「ええっ!」
あれって……もしかしなくても、悪いものだ!
しかも、今のあたしに見えるってことは……けっこう強力なもの。
全身にざわりと鳥肌が立つ。
そんな……なんでいきなり奈々ちゃんに……?



