そこにいたのは、ちゃんと防具をつけた剣道部員で、防具の名前から風牙くんということがわかる。
彼は次から次へと、向かってくる新入部員を打ち負かしていた。
「強いね、先輩」
「ほんとだ」
実は手裏剣みたいなリングを投げるのも得意なんだけどね。
ひと段落ついたのか、風牙くんが面紐に手をかけた。
するりとそれがほどかれ面が取られると、彼の端正な顔があらわになる。
汗が目に入りそうになったのか、ふるりと首をふったその瞬間、『風牙くんに好かれ隊』がはじけるように黄色い悲鳴を上げた。
どうやら、試合中はがんばって静かにしていたみたい。
うん、たしかに胴着姿は制服姿とはまた一味違っていいよね。それはわかる。
風牙くんはあたしに気づくと、うっすらと笑ってくれた。
それがまた、ファンクラブの情熱に油を注ぐ。
彼女たちからすれば、誰に微笑んだのかわからなかったんだろう。
「巻き込まれる前に、行こう」
あたしの提案に奈々ちゃんはうなずいて、そっとその場をあとにした。



