「あらまぁ帰るの? またねぇ」
ママがこっちに寄ってくる。ごめんなさい。なんだかおかしくなりそうだから。帰ります。
「送るよ」
「いいよ」
「ちょっと、相田……」
あたしは店を出る。付いてこなくて良いよ。
地下の通路は外と同じに寒い空間だった。最近めっきり寒くなった。奏真が連絡をくれなくても、季節は進んでいて、冬は深まる。空気も冷たくなって、心も堅くなる。
「さむ……相田、この間は……」
「なにそれシャレ? それはまぁあたしアイダですけど」
「なに怒って……」
奏真はあたしの後を追ってくる。コートを持っている腕を掴まれた。
「なんだよ、怒ってる?」
「別に……」
ああもう。子供みたい。奏真は分からないんだから。あたしがどう思ってるかなんて。黙って居なくなればいいじゃない、あたし!
「なんでそんな顔すんだよ」
強引に向き合わされた。腕が痛い。寒い。コートを着て出てくれば良かった。持っていたコートが床に落ちる。
「だ、だって!」
バッグを抱き抱えた。冷たい。何もかも冷たい。もういやだ。
「あたし無関係だから、別に良いよ。奏真くんが誰と結婚しようと、関係無いし、中学でイチオンの時も、楽しかったけど、まぁ思い出だし」
自分で何を言ってるのか分からない。通路は寒いけど、あたしの頭は熱い。目頭も熱い。鼻もツンとする。
「なに、言って……関係無いって、あのな、俺は」
「関係無いじゃん! あたし美帆ちゃんのこと知らないで、彼女居るっていうか結婚するのは知ってたけど、でもなんか調子に乗って、奏真くんと会ってたし、やってること最低だしバカみたいだし」
「だしだし言うなよ」
いちいちあげ足を取る奏真に腹が立った。もとはと言えば、あなたが。違う、あたしが。あたしが。



