月夜のメティエ


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 月曜日はだいたい、なんだか疲れていて気持ちが重く、仕事がはかどらない。ブルーマンデーとはよく言ったものだ。でも今日は違った。

「相田さん、先週の発注の話だけどさー」

「はい、資料出来てますので」

 部長の言葉が終わらないうちに返事をしてやった。ドヤ顔だったかもしれない。「あっそう」となんだか不満そうにしていたけど、それにつき合ってる暇は無い。あたし忙しいんだから。今日は残業しないで定時で帰ってやるんだから!

 奏真が講師をしている、こども音楽教室に遊びに行くのが今日。
 ちょっと、バカだなって思ってる。でも同級生として遊びに行くくらいは。それだけだし……。別に何も無いんだから本当に。あたしの片想いなだけだし、奏真は知らないんだから。

 キーボードを叩く指先。今は冬だけど、なんだか桜の花びらみたい。1度塗りでちょっと薄かったから、重ねて塗った。とても良い色のネイルになって、しかも綺麗に濡れたし、心が明るかった。どうしてもウキウキしてしまうから、頬の内側を強く噛んだ。
 定時で帰ってやる。だって、待ち合わせなんだから。ピアノ教室に行くんだから。大人になってからの習いごとだよ。……本当、バカだ。

「相田さーん。支払いのデータ、今月分まとめたいんだけど」

「分かりました。あと営業に持って行きますね」

 営業事務の先輩から声がかかって、それに元気良く答えた。今日のあたしは頭が冴えてる。某カラダ管理のアプリにも、今日は頭の回転が良い日と書かれているに違いない。見てないけど。