月夜のメティエ

「そりゃああたしも、恋愛はしたいですけどね」

「なんか本当にテンション低いわぁ。同窓会で再会、懐かしさから恋が芽生えるなんて鉄板じゃないの。友達の結婚式二次会とか。あとなに?」

 なんか盛り上がってきました。でも、カズヨ先輩が楽しむような話じゃないんだよなぁ。あたしは一瞬迷って、口を開いた。

「同級生との再会が、キラキラときめきな感じだったら良かったんですけれどね……」

「なんか問題あるの?」

 ちょっと迷って、あたしは口を開く。

「結婚……するんですって」

 うわぁ、という口の動きをして、手を頭に当てるカズヨ先輩。

「なんか、あんまり笑えないね」

 そう苦笑いされて、こういう顔をされることなんだなと感じる。

「あ、やましいことしてるんじゃないですよ? 中学の同級生なんですけど、当時あたし片想いしてて」

 ページをめくる音。まだ暖かくならない室内。あまり明るくない照明。照明も扱ってる会社なのになんでここケチってんだろう。

「なんていうか、懐かしくて」

「思い出しちゃった?」

 頷く。仕事しながら話してるつもりだけど、会話の方がメインになってしまって、手が止まってる。言うんじゃなかったかな。
 廊下を、誰かの足音が通って行った。

「なんでしょう。よく分かりません……」

 あんまり突き詰めて考えると脳みそが沸騰しそう。悲壮感漂わせたくないし。

「そっかぁ。気持ちに正直に居たいと思うけど、どうなんだろうね」
「そうですね……」

 重苦しい雰囲気にしてしまった。少し後悔してる。大人の女が2人で仕事しながら恋愛の話。オフィスを舞台にしたドラマなら、ありがちなシーンかもしれないけど。

「2人で、会ったりしてるの?」
「……いいえ」

 これから会うんだけど。その点に関しては、黙っていた。

「別にどうなりたいとかじゃないんです。懐かしいなって」

「男がどういう人か知らないからなんとも言えないけど……」

 カズヨ先輩が持っていたファイルをパタンと閉じた。見えないけどきっと埃が舞ったに違いない。

「……ていうかあたし、のらりくらり、実の無いこと言ってるね。ごめん頭突っ込むつもり無いんだけど」

 すっとこちらを見て、優しく笑ってくれた。その眼差しの綺麗さ。

「2番目とか、止めておきなよ」

 ドキン、そう心臓の音が聞こえたのはなぜだろう。「さ、早く終わらせよう」とカズヨ先輩が言って、その話題は終わった。

 書類をめくって数値を拾いながら、奏真に会いたがってる自分をカズヨ先輩に気付かれてしまうんじゃないかと、気が気じゃなかった。