月夜のメティエ


「カズヨちゃん、夕方早めに帰りなさい」

 午後、遠坂部長がそう先輩に声をかけていた。この部長も、優しいんだかむかつくんだか分からない人だ。

「みんなに風邪うつるだろ?」

 ……ひとこと多い。

 あたしは、昼休みにコンビニに行って買ってきたのど飴と粉のビタミンドリンクをカズヨ先輩に渡した。栄養ドリンクも買えば良かったかもしれない。

「こんなに……ありがとう」

 苦笑してたけど、受け取ってくれた。

「急に休んだから、部長グチグチうるさかったでしょ。ごめんね」

 カズヨ先輩が、大声で電話してる遠坂部長の方に目をやって、小声で聞いてきた。

「大丈夫ですよ~。納品書の件もなんとかなりましたし。部長それでワイワイ怒ってたので」

「ワイワイって、怒って無さそうだけど」

 ふふっとカズヨ先輩は笑った。

「だってなんか、遠坂部長って1人で大騒ぎしてる感じで怖くないじゃないですか……なんか、その」

「あっはは、それ良い例え!」

 カズヨ先輩は笑ってそのまま咳き込んだ。後ろの方に居る新人くんが心配そうにこっちを見た。

「まぁ、遠坂部長も居ないと困るし。ああいう人も必要というか。ま、がんばろってこと」

 前向きだなぁ。見習わないといけない。ああいう部長の下で、あたしよりも長くがんばってるんだもの。さすがだな。

「そうですね」

 あたしが渡した風邪に良さそうなもの全部、コンビニのビニール袋を膨らませていて、ちょっと荷物にしてしまったかな。早く元気になって欲しかったから。