笑って手を振ろうよ。笑顔で見送りたい。
奏真が安心して海の向こうでピアノを弾けるように。歌声に花を添えて、観客に届けられるように。
奏真があたしを想う時、笑い声も思い出せるように。
そして、安心して帰って来られるように……。
見えなくなる背中、完全に視界から消える前にあたしは後ろを向いて、その場から立ち去った。
飛び立つ飛行機を見る為に、ロビーに戻る。
みんな奏真と同じ飛行機だったのだろうか。人が少なくなっている気がする。窓から見える飛行機のどれに乗っているのか、分からない。大きな空港の窓は、大きな景色を切り取っている。
青い空が広がって、とても良い天気だ。奏真が旅立つ日を祝うかのよう。
1機が動き出した。もしかしたら、あれかもしれない。窓が見えるけど、どこに座ってるのか分からないもんなぁ。
少しだけ、息を止めている。離陸の瞬間、泣かないと決めていたのに、涙が出た。
高い高い空に飛び立つ飛行機。高くて青い空は絶対で、自分が小さい存在に思うから、嫌い。それは、今も思う。でも、その空に飛び立って、奏真は新しい1歩を踏み出した。この点が、未来へと繋がって行くんだね。
2人の間に、高くて青い空がある。
「ああ、行っちゃった」
飛行機が見えなくなるまで、あたしはひとり、青く澄んだ、高い空を見上げていた。
その青は温かくて眩しくて、ちょっと切なくて。なんだか、奏真に抱かれているように思えた。
end.



