月夜のメティエ


 あたし達はすれ違ってばかりいて、最初は奏真が居なくなって、そして次にあたしが自分から姿を消した。でも、求め合う心はまた2人を会わせて。

 今度こそ、離れない。

 温かい奏真の腕の中で、息をしているあたし。もっともっと、息が止まるまで、あたしはあなたと一緒に居たい。

「……帰って来たら」

「うん?」

 すっぴんだし、髪の毛は生乾き。奏真が旅立ったら、ちょっとの間、ビールは1人で飲むね。


「……結婚すっか。帰って来たら」

「……うん」


 長い人生の中の1年だけど、本当は離れていたくない。ちょっとかもしれないけど。あっという間なのかもしれないけど。

 奏真の鼓動が聞こえるよ。背中に回された温かい腕も、名を呼ぶその声も。ピアノを柔らかく優しく弾く指も、口付ける唇も力強い胸も。あたしに絡んで離れない。

 あなたの指で、あたしの心も紡がれて行くんだ。


 14歳の時から、あなたのピアノは、あたしの心を縛ったまま。絡め取られる。旋律に、縛られてる。ああ、なんて、なんて……幸福なんだろう。