月夜のメティエ


 今日は仕事が終わったら、買い物して……奏真のマンションに……あれ、ビールあったかな。買わなきゃだめかな。自分が飲むやつだけど。

「相田さん、電話!」

 遠坂部長のでかい声がフロアに響く。聞こえてるから、そんな大きな声を出さなくても。

「はい。お電話変わりました」

 決算の時期に入るので、社内がドタバタしている。締めても後処理でまだしばらくは忙しいだろうな。
 カズヨ先輩も、新人・米田くんの面倒を見つつ、こなしていた。

「先輩、お昼に食べましょうよ。パン買ってきたんですよ~。あの駅前の」

 電話を切ってから、カズヨ先輩を呼び止める。先輩は、嬉しかったのかピョンとちょっと飛び上がった。なんだ、可愛いなオイ。

「あ、良いね! あたしあそこまだ行ってないんだよね」

「今年に入ってから出来た店なんですよね」

「そうそう」

 米田くんにも買ってあるから、後で声かけよう。


「遠坂部長、パン召し上がりません?」

「ん? パンか。うちのカーチャン好きだよ」

 奥さんのことか……というか、あなたは好きですか? 返事になってないけど。

「良かったら、お昼にどうぞ。奥様にも」

 あたしは、部長用にと別の袋に包んで貰ったパンを差し出した。遠坂部長は変な顔をしていたけど、にんまりと笑顔になった。いつも怒ってばかりだけど。眉間の皺が凄いですよ。

「あれま、悪いね」

「駅前に新しく出来たお店の、いっぱい買ってきたんですよ。遠坂部長は何パンが好きですか?」

「あ、俺ね、アンパン」

 やっぱりね。