月夜のメティエ


「あのさ、あのね」

 美帆ちゃんは、けじめを付けた。奏真も、自分の心に正直に、結婚を断った。空回りだったかもしれないけれど。残るは、あたし。

 奏真を真っ直ぐ見た。照明はあまり明るくないけど、逆にそれが良いのかもしれない。

「普通に、恋したい。あたし、奏真くんの恋人になりたい」 

 言ってしまった。だって、でも、そう思ったから。

「……なり、たい」

 顔から火が出そうだ。

「……」

 やばい、見てる。奏真が見てる。当たり前だけど。
 
 ちゃんと自分で告白するんだ。きちんと想いを伝えるんだ。この間みたいに勢いで言っちゃいましたーっていうの無し。

 14歳と今の奏真に、恋をしているあたしを、伝えろ。

「ずっと好き。14歳の奏真くんも、い、今も……」

 目を合わせられない。奏真は、何も言わない。何か言って欲しい。


「……そろそろ、演奏の時間だ」

 奏真は、そっと立ち上がる。そしてあたしの頬に触れ、身をかがめて耳元で囁いた。
 目を閉じた。今夜は、眠れないかもしれない。


「俺も」

 耳元で囁かれたその言葉。胸に沁みて行って、涙が止まらない。あんまり泣いてると、まわりに怪しまれるから……。