月夜のメティエ


「……」

 なんなんだ。この状況は。あたしはどうしたら良い。息をするのさえためらう。店内に低く流れるクラシックが、やけに胸に響く。

「……あの、この間は……美帆ちゃん」

 食事をしたんだろうか。彼女の前にはパセリだけ残った白い皿が置かれていた。

「話の途中で帰っちゃうんだもんな、朱理ちゃん」

 キッと睨まれた。思わず目をつぶってしまった。睨まれたような気がしただけで、本当は見ただけかもしれない。

 ふう、ため息のようなものを彼女は吐いた。ゆっくりと口を開く。


「あたし、2人に言おうと思って。1人ずつだと面倒だから呼んで貰ったんだけど」

 ため息とともに美帆ちゃんは、水のグラスを口へ持って行く。そして、コツンとテーブルへ置いた。

「勘違いしてるみたいだから。2人とも」

 自然と、美帆ちゃんのお腹に視線が行ってしまう。ふんわりとした服を着ていたからよく分からない。たまらない思いでいっぱいになる。

「まぁ、ちゃんと言わないあたしが悪いかもね。……そりゃ、奏真に一緒になろうって言われた時は、とても嬉しかったよ……うん」


 落ち着いた声で話す美帆ちゃん。奏真は、どんな顔をしてる……?

 話すというより、どっちかと言うと美帆ちゃんの告白を、あたし達が聞いてるような感じがする。

「奏真は、あたしとお母さんのことを思ってくれて、一緒になろうと言ってくれたんだと思う。でもね」

 きゅっと音がした。美帆ちゃんがソファに深く背中を沈めたからだ。

「あたしに愛情が無いのは分かってるから、やっぱりこの結婚はできない」