「……こんばんわ」
入口に門松が置いてある「ICHIRO」のドアを開ける。ピアノの音は聞こえなかった。演奏、まだなのかな。スマホの時間を見ると、19:30だ。ちょっと早かったのかな。
「あら、こんばんわ朱理ちゃん。あけましておめでとう~」
「おめでとうございます。また来ちゃいました」
マフラーを取る。今日は真っ赤なシャツの壱路ママだった。素敵っす。
「何言ってるのよぉ、いつでも来てね」
コートを脱いでカウンターに座ろうとすると、あっちに居るわよ、そうママが店の奥を指さした。見ると、ソファ席に奏真の横顔、そして、女の人……後姿。心臓が跳ね上がった。あれは、美帆ちゃんだ。
「ありがとうございます」
「ビール持って行くわね」
照明のオレンジを辿って、2人が座るテーブルへ向かう。奏真はまだあたしに気付かない。2人で何を話してるの? 談笑している様子は無いけど。なんで美帆ちゃんが居るのか……。あたしを呼べって、言われたのかもしれない。
1歩1歩と近付いて行く。無意識に足音を立てないようにしている。
「こ、こんばんわ」
震える声を出す。奏真があたしを見た。続いて、女の人が振り向く。……やっぱり美帆ちゃんだった。
「こんばんわ」
口元だけで笑って、挨拶をしてくれる。奏真は「よう」と言って、カップを置いた。美帆ちゃんは当たり前だけど、2人とも、お酒は飲んでいないみたい。あたしビール頼んでしまった。失敗した。
「ごめん、あたし飲みもの変えてくるね」
「いいから、座りなよ」
奏真が引き止めた。
「……」
「座って」
2人から言われて、あたしはどうもできなくなった。コートを脱いで、空いてるソファに座る。酷くぎこちなく。あたしのガチガチの意識に反して、ソファはフカフカだ。



