「俺、相田を忘れて、美帆と……」
膝の上に置いていた奏真の手。拳は震えている。
「でもな……結婚できないって、一緒になれないって美帆に話した。どういうことだって、言われたけど」
あたしをじっと見ていた美帆ちゃんの顔を思い出す。彼女と、お腹の中の子供。その2人に見られているような気がして、心臓が冷えていた。
「あたしには、奏真しか居ないって……言ってた。この間、会った時」
「……そう、か」
沈黙は、今の2人にとっては好都合かもしれない。だって、言葉が見つからないから。なんて言ったら良いのか、分からないから。
「相田のこと……美帆とこのまま一緒になんてなれるわけ、ないだろ」
乾いた、そして疲れた笑いだ。ははは、と頭に手をやって、あたしを見た。
一緒になれない男の子供を妊娠している美帆ちゃん。娘をシングルマザーにしたくないお母さん。あたしを好きだって言う奏真。そして、奏真を好きなあたし。
どうしてですか。
点と点は繋がって、あたし達は再会したのに、物語は繋がったのに、赤い糸はもつれてしまった。その糸は赤くないのかも。最初から繋がってないのかもしれない、そういう疑いと絶望。
エアコンの音。部屋は暖かくなった。でも、頭の中は冷えている。ああ、カーテンが開いている。そして、そこからはとても綺麗な月が見えていた。
「相田と連絡が取れなくなって、あの転校した時のことを思い出したよ。あの時は手も足も出なかったけど」
「……」



