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この坂上の家には多くの負を背負った人間が訪れすぎていたのが、全ての原因だった。

長い年月をかけて古い家の中に溜まったそれらは、鏡で防ぐのには余りにも大きすぎるものだったからである。

具現化した負のエネルギーは次第に鬼の姿をとるようになり、当時八助以上に有能だった息子の啓一に目をつけた。

形を成した鬼が強い力を得る為には、強い力を持った人間の肉と魂を喰らうこと。

唯一の方法だ。




その日、八助はたまたま用があって家を空けていた。

だが、朝から妙な胸騒ぎがしていて、早めに帰って来たのだが…。


「じぃちゃん、助けてーっ!!」


玄関を開けると同時、紋瀬の悲痛な叫び声がした。

「紋瀬、どこだっ!?」

八助はまっすぐに伸びた廊下に続くおびただしい血溜まりを横目で見ながら、声のする方へと走る。

「紋瀬ーっ」


バンッ!!


廊下の行き止まりにあった奥座敷の襖を、勢いよく開け放つ。

そこは啓一の作業部屋だった。

「じぃちゃん!!」

鬼に部屋の隅に追いつめられ、泣きじゃくっていた知尋が八助の姿を見て叫ぶ。


《くくく…また獲物がひとつ…》


鬼が地の底を這うような低い声音で、不気味に笑った。

「おのれ…その分だと、息子夫婦を喰らいおったな」


《ああ、喰ってやったとも…最高にいい魂と肉だったな》


血のついた口元を手首で拭うと、ぺろりと舌を出す。


《お前みたいな老いぼれでも、少しは我が力の糧となろう…鬼に喰われること、光栄に思え》


鬼は八助にじわりと近づいて来た。

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