「あ、僕は浜秋文。よろしく」

しかし、紋瀬は名前などどうでもいいのか、

「この土地までわざわざ鏡を注文しにくる人がいるのですが、その時に災いまで一緒につれてくる人が少なくないんです。ここに来る途中、村人に変な顔されませんでしたか?」

秋文が差し出した手を取ることなく、話を続ける。

「…ああ、そういえば、道を尋ねた老人が何か言ってたな。この家を訪れる者は厄介事を持ち込んでくると」

答えながら、所在なげな右手を引っ込めた。

「だからこの家にも必要なんですよ。あなたのように鬼を封じ込める力があれば、逆鏡を使うんですけど」

「いや、僕にそんな力は・・・」

「だけどあなたも浜の一族なのでしょう?」

「確かにそうだけど、残念ながら僕にその才能がないんだ」

「……」

秋文の答えに紋瀬は瞳を細めただけで、そのままどこかへ行ってしまった。

返答が気に入らなかったのか、興味が失せたのか。

秋文は一人、作業部屋に残される。


(冷たい目―――)


秋文は紋瀬を見て思った。

他所から来た自分に警戒してのことなのか、そういう顔立ちなのか、秋文には判断しかねる。

けれど秋文なんかより余程、彼の方が落ち着いた雰囲気で大人びて見えた。
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